不在の巣

なろうで小説を書かせてもらっている馬込巣立のブログです

読書感想文『はじらいサキュバスがドヤ顔かわいい』

 こんにちは、馬込巣立です。

 

 金曜日に急遽仕事を休み、友達の家で適当にスナック菓子を貪りながら駄弁ったりゲームやったりして、今日はぐっすり寝てから小説の最新話も投稿なんかしたりして何だかんだすっきりしました。

 やはり休まないと疲れは取れませんね。それもただ漫然と休むのではなく、睡眠時間を普段より多く確保しながらも起きている間は何かしら活動しているとより体がメリハリを取り戻すと言いますか。

 適当言いました。

 

 で、小説の最新話を投稿してからこの『はじらいサキュバスがドヤ顔かわいい』というライトノベルの3巻を読み終えたので「久しぶりにブログも書くか」と思い立ち、こうして読書感想文を書く運びとなったわけです。

 

 前回同様にネタバレも多分に含みますので、そこは自己責任でお願いいたします。

 

f:id:magomesudachi:20200725070012j:plain



 

◆作品の概要

 

 この作品は「男性が苦手なサキュバスが二次元をこよなく愛する主人公の男子高校生と一緒にいちゃいちゃする」という内容です。身も蓋もねぇな我ながら。

 

 主人公・津雲康史はサキュバスのエロい体つきを見ても「きかないねえ! 二次元を愛してるから!」というオタオタの実を食ったオタク人間みたいな奴で、それを見込んだヒロインのサキュバス・天谷夜美が「コイツなら万が一にでも自分を襲うようなことないだろうし男慣れするための練習台にしたろ」と接近してくるところまでが物語冒頭。

 で、そこからお互いに異性を意識していく流れとなっています。

 

 読んでいると割と光る部分もあって個人的な評価としては中くらいの作品かな、と思いました。

 いやついこないだまで底辺だったアマチュアのなろう作家が何様のつもりだと言われるかもしれませんけど、3巻まで読んだ上で申し上げるならこの作品は「なろう作品なら絶賛できるけど電撃文庫の作品としては中くらい」なんですよね。

 その辺りもお話できればと思います。

 

 

 

良かった部分

 

メインヒロインに意外性がある

 

 記事の上の方に1巻の表紙を提示しておいたんですが、皆さんはこのタイトルとキャラクターデザインからどのようなヒロイン像をイメージされましたか?

 恐らく多くの人は「普段は引っ込み思案だけど何かやり遂げる度に褒めて欲しそうにドヤ顔する」というパーソナリティをこのヒロインに求めたのではないかと思います。

 では実際にはどんなもんなんでしょうか?

 

 蓋を開ければ待っているのはめぐみんとメムメムちゃんのハーフでした。

 

 先に書いた文章では「コイツなら万が一にでも自分を襲うようなことないだろうし男慣れするための練習台にしたろ」というセリフをこっちで勝手に宛がいましたけど、実際にそんなノリで生きてるのがこの作品のヒロインです。マジでそんな性格してます。

 彼女のセリフを一部抜粋すると、こんな感じです。

 

「どういう神経してるんですか……? え、ちょ……引くわ……」(1巻62P)

「はあああ、情けな! はあああ!」(1巻73P)

「――こ、この野郎! 私とやるってのか!」(2巻33P)

 

 この辺のセリフを見れば「大人しい性格ではねぇんだろうな」と誰もが察するかと思います。

 因みに笑い声は「ハハハ」か「むはは」です。「ガハハ」は別の人。

 

 そんでタイトルの「ドヤ顔」ですけど、コイツ自分が何もしてない場合でもなんか流れで褒められるとドヤ顔するんですよ。 褒めてビームぶっぱするゴブリンスレイヤーの女神官とは微妙に属性が違います。

 つまりこの作品におけるヒロイン、天谷夜美の属性は褒めて欲しそうにドヤ顔する子犬っぽいキャラでは決してありません。いちいち「何もありませんでした!」と報告を入れてはスペック低いパソコンの動作を不規則に遅くして、アンインストールしても翌日には謎の復活を遂げているウィルススキャンソフト系女子です。

 

 こうして書くと「それどこがええのん」と思われるかもしれませんが、単純になかなかいないタイプのヒロインなのが魅力なんですよ。セオリーから半歩外れた位置にいるというか。

 要は古き良き新ジャンルスレッドに近いものがあるわけです。なのであの時代を知る人にとっては正攻法な変化球といった具合に見えるでしょう。

 

設定の骨組みがしっかりしている

 

 この作品にはヒロイン以外にも色々なサキュバスが登場するのですが、サキュバスによって構築されている社会の構造が割としっかり設定されています。

 

 例えばサキュバスは男の欲望を獲得して、それを色欲様という最上位の存在に献上して社会的地位を得るという仕組みがあります。そんな中で男性が苦手なヒロインの夜美は、男性に近寄らずSNSを通して扇情的なイラストを描き、そこから得られる欲望で生計を立てているんですね。

 しかしキャラクターのモデルにした他のサキュバスにはモデル料金のような形で中抜きとして獲得した欲望を取られてしまい、結果彼女の手元には一割程度の欲望しか残りません。それ故に彼女は本来であれば結構な量の欲望を得られているはずのところ、大した成果を挙げていない落ちこぼれとして扱われているんです。

 

 これは物語の流れやあらすじ、登場人物のパーソナリティとも上手く噛み合った素晴らしい設定です。

 

 他にも最上位存在である色欲様が憑依したサキュバスは一気に立場が上の方になって扱いが良くなったり、サキュバスの思うがままに操れる夢見の街という異空間が存在したりと結構応用が利きそうな設定が盛り込まれています。

 少しでもファンタジー要素がある作品ではこの辺の設定をしっかり考えていなければどこか薄っぺらく思えてしまうんですが、『はじらいサキュバスがドヤ顔かわいい』においてその懸念は不要と言えるでしょう。

 

 

 

悪かった部分

 

ヒロインの魅力が若干尻すぼみになっている

 

 先に挙げたヒロインのセリフですが、ページ数を見ていただけるとわかる通り250ページ以上ある本編の中では序盤も序盤です。

 何故かと申しますと、物語後半ではあの尖ったキャラクター性が損なわれるからです。

 

 これは読んでいても本当に何故かはわからないんですが、時折見えた粗野な口調がどの巻でも後半には一切見受けられないんですよね。

 いや3巻に至っては序盤からそういったセリフが見受けられないので編集者の指示が入ったか私がまだ一回しか読んでないから見落としてるかのどっちかだと思うんですけど。

 

 先述した長所でも言ったように、そのどこか悪ガキめいた口調から生じる可愛らしさが確かにあったんですよ。

 しかしそれは前半にしかない要素なわけです。ヒロインのそういう部分を好ましく思った私のような読者からしてみれば結構な竜頭蛇尾に感じられました。

 

主人公の属性が形ばかりになっていく

 

 前述した内容と少し被りますが、こっちの方が事態は深刻と言えるでしょう。

 

 主人公の津雲康史は「中学時代にした覚えもない告白が原因で好きでもない巨乳の女子にフラれた」という過去を持ち、その結果二次元の美少女に性的欲求を全て向けてきたという属性が付与されています。

 これ自体は別に普通なんですけど、問題は二次元に傾倒している割に3巻時点であっさりヒロインに籠絡されている点です。

 

 この問題点、本当に2巻まではそこまで違和感なかったんですけど3巻冒頭からああだこうだと自分に言い訳しながら夜美を他の男に近づけまいとしている描写があまりにも気持ち悪くて一気に冷めました。お前まだ付き合ってすらいないだろ……。

 彼が二次元に傾倒している理由を1巻冒頭から示している以上、その過去の扱いは物語全体に浸透させるべきだと思うんですよ。少なくともヒロインである夜美が直接彼の過去に触れて互いを受け入れる準備をしない限り、彼の二次元に向けた愛情と共に彼のパーソナリティはどんどん説得力を失っていくんです。

 正直「これなら最初からヒロインを現実世界に飛び出した二次元のキャラにでもした方が説得力あったな」と今でも思ってますからね私。

 

凡そ“山場”と呼べるものが平坦

 

 私なんかはなろうで専ら「戦って終わる」バトルものばかり書いているのでその辺のあれこれには詳しくないんですけど、ラブコメの山場って多岐に亘るものだと思うんです。

 ちょっとした行き違いから崩壊しそうになった人間関係をより強く結びつける、絶好のロケーションで告白する、しょうもない競争の中で自分が抱く感情の方向性を見つめ直しヒロインへの恋心を自覚する、などなど。

 そこで言うとこの作品は山場が無いわけじゃないもののインパクトに欠けると言わざるを得ません。

 

 例えば1巻では「夜美が初めてサキュバスをモデルにしていないキャラの絵をSNSに上げて納期までの限られた時間で欲望を稼ぐ」という山場があるんですけど、過程と結果双方にあまりにも動きがない。言ってしまえば絵面が地味です。

 2巻はまだ真っ当な出来で、色欲様が憑依した夜美の暴走を止めるために康史が彼女に接近して口説くことで気絶させるという場面が用意されていました。ただ、こちらはこちらで色欲様に関する情報が事前に提示されていたりもしてないので言ってしまえば伏線不足でした。

 3巻に至っては新キャラのサキュバスが主人公の友達相手に惚れたかと思ったら腐女子化して終わりました。事情を知らない方からすれば「何言ってんだ?」と思われるかもしれませんし本編を読んだ方は「そこに至るまでの流れとかもあるだろ」と言われるかもしれませんが、私に言わせれば「にしたって他にやりようあっただろうがよ何だあのオチ」って話です。

 

 ここまでに紹介した他のダメな部分も相まって、全体的に話が進むとクオリティが下がるという印象がどうにも強い作品でした。

 

タイトル詐欺ならぬタイトルミス

 

 これはここまで言ってきたことと比べるとそこまで重要な要素ではありません。あくまでも個人的に気になった部分でしかなく、人によっては重箱の隅でしかないでしょう。

 

 この『はじらいサキュバスがドヤ顔かわいい』というタイトルですが、私は初めてこの文字列を見た時に奇妙な違和感を覚えました。

 別に長文タイトルだからどうとかそういう面倒な話ではないんです。ただ、このタイトルは客観的要素の次に主観的要素を持ち出していて、それが私にはどうにも適切ではない表現に思えて仕方がなかったと言いましょうか。

 

 前半部分の『はじらいサキュバスがドヤ顔』は客観的表現です。このページ上部に貼り付けた1巻表紙を見てもらえるとわかる通り、顔を赤らめている夜美とドヤ顔をしている夜美が並んでいます。

 つまりここまでの流れで私の脳はこの作品のタイトルを客観的と認識したんです。

 しかしその次に書かれている『かわいい』は完全な主観的表現であり、ここまで客観的要素を提示された身としては「なんだいきなり急に出てきやがってオメェ誰だよ」という違和感がどうしても出てきてしまったんです。

 

 もしこれが『はじらいサキュバスはドヤ顔を浮かべる(完全客観型)』とか、あるいは『俺の隣りでかわいいドヤ顔を浮かべるサキュバスとの不服な日々(完全主観型)』とかだったらそこまで違和感を感じずにいられたんでしょうけどね。

 ただまあこれは私の好みの問題でもあるので、先に挙げた要素と比べるとそこまで眉を顰める部分でもありません。詐欺じゃなければ罪ではない。

 

 

 

総評

 

 最初に私は「電撃文庫の作品としては中くらい」と評しましたが、ここまでそこそこ悪い部分を取り上げたことでもしかすると皆さんは「これで中くらい……?」と思われているかもしれません。でも中くらいなんですよ。

 

 たまに「最近はなろう系ばっかでライトノベルの平均レベルも下がったなあ」という意見を見かけますが、ぶっちゃけ00年代のライトノベルもトップクラスが突出して面白かっただけでそんなにクオリティが高くない作品は有名なものでも散見されていました。

 言ってしまえばそういう作品はラブコメ系に多かった気がします。乃木坂春香の秘密とかれでぃ×ばと!とか、アニメ化もされてましたけどぶっちゃけ中身はそんなに面白くありませんでしたし(ファンの方いらっしゃったらごめんなさい。でも当時の最新刊まで読んだ上にイラストレーターが違う同作者の作品も目を通す程度に読んだ私としては「作者はそこまで実力ねぇな」としか評価できませんでした)

 

 そんな中、まだヒロインのキャラクター性で若干攻めていて、エロで釣るのではなくあくまでも女の子の可愛さを引き立てる場面に挿絵を入れているこの作品は電撃文庫の作品としては「中の下ではなく中くらい」だと思っています。

 あれだけ批判しといてこんな風にまとめると変に思われるかもしれませんが、中くらいの作品ならこのくらいの指摘は出ます。

 最初に「なろうだったら絶賛してた」と言ったのは「素人が『電撃文庫で言えば中くらいの作品』を書けるというのは凄いことだ」という意味です。多分なろうの日間ランキング上位の作品を適当に見繕って評価したらこんなもんじゃ済まないでしょうし。ていうか今の日間ランキングに載ってるようななろう小説じゃ電撃文庫に応募してもまともに賞取れねーだろうし。

 

 というわけで、今回の読書感想文は以上です。

 最近では電撃文庫ガガガ文庫くらいしかクオリティ面で信頼できるライトノベルレーベルが見当たらず、ついつい『つるぎのかなた』『リベリオ・マキナ-《白檀式》水無月の再起動-』『鏡のむこうの最果て図書館 光の勇者と偽りの魔王』『死にたがりの聖女に幸せな終末を。』の四冊をまとめて購入してしまいました。ゴブリンスレイヤーユーフォニアムも錆喰いビスコも積んでるのにどうすんだ俺。

 

 これらの読書感想文は今のところ書く予定もありませんので、各々気になった作品を読んでみてください。

 それでは、また次回の記事でお会いしましょう。