不在の巣

なろうで小説を書かせてもらっている馬込巣立のブログです

読書感想文『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』

 皆さんこんにちは、馬込巣立です。

 

 有名な作品なのでご存知の方も多いかと思いますが、先日ついにあの名作ライトノベルやはり俺の青春ラブコメはまちがっている。(以下、俺ガイル)』が完結しましたね。

 

 1巻初版からこの作品の底力を見抜いて8年半ずっと追いかけ続けてきたファンとして、今回はこの作品の感想を書いていこうと思います。ある程度はネタバレも含むと思いますのでそこはご勘弁ください。

 

f:id:magomesudachi:20200725065935j:plain



 

 では語っていきましょう。

 

 

 

作品の概要

 

 これだけ有名な作品となるとどこまで必要性があるのかどうか甚だ疑問ですが、とりあえず簡単な物語の説明をばしていきます。

 

 このライトノベル「ぼっちの主人公が学校の中で奉仕活動を通してあらゆる人々と出会い、その繋がりを経て成長していく」という内容の作品です。これだけだと普通の作品にしか思われなさそう。

 

 主人公の比企谷八幡は生粋のぼっちであり、その在り方のひねくれっぷりたるや尋常なものではありません。他のラノベに出てくるひねくれ者がまだ常識的に見えるレベルで拗らせた性格してます。

 更に同じく拗らせたひねくれ者である完璧優等生の美少女・雪ノ下雪乃と頭はあまりよろしくないもののリア充グループに属する由比ヶ浜結衣ダブルヒロインも絡み、彼ら彼女らの人間関係が時には温もりに包まれ、時には寒波に見舞われて発展していくわけです。

 

 ぶっちゃけ初期の状態だとヒロインは主人公にキャラクターとして力負けしており、「この主人公に見合うヒロインと言えるのか?」という奇妙な疑念を読者に抱かせる要因にもなっています。事実私と私の友人は「八幡だけ世界観違うくね?」と作品の内容に首を傾げたりもしていました。

 

 では、いいとこ悪いとこを連ねていきましょう。

 

 

 

良かった部分

 

魅力的な登場人物達

 

 ライトノベルを書く上で重要なのはシナリオよりもキャラクターであると言われています。

 とはいえそこはプロの作家の間でも主張が違ったりするのですが、この俺ガイルに関して言えばキャラクターの魅力が凄まじいんですね。

 

 わかりやすいのは一色いろはというキャラクターでしょうか。

 

f:id:magomesudachi:20200804183219j:plain

↑こいつです

 

 彼女の初登場は確か番外編のどっかだったと思うのですが、その際には本当にちょい役であり名前と少しのセリフ以外は出てきませんでした。

 本格的に本編に絡み始めたのは8巻からです。つまり、この時点まで俺ガイルは雪ノ下と由比ヶ浜によるダブルヒロインを主軸にラブコメを進めてきたんですね。

 

 ところが彼女の登場によって、物語の方針は実質的にダブルヒロインからトリプルヒロインに変わりました。

 

 当時は俺ガイルの二次創作界隈でも蓋を開けばいろはすいろはす……といった状態で、もう少なくともネット上では八幡の正妻みたいな状態でいたんですよ。

 しかも普通に考えればオタクにあまりウケなさそうなあざとい腹黒後輩キャラ、加えて主人公以外の男子生徒に想いを馳せているというラノベヒロインどころかサブカルチャーにおけるラブコメのヒロインとしてアカン存在だったはずなのに、です。

 

 しかし彼女はとんでもない人気を掻っ攫っていきました。それまでのダブルヒロイン達を差し置いて。

 まあ当時はそのダブルヒロインと八幡の関係がぎくしゃくしていたりだとか、その結果として八幡といろはの絡みが増えただとか色々な条件が揃ってはいたのですが。にしたってイラストレーターであるぽんかん⑧先生が同人誌でこのキャラの本(当然全年齢向け)を出すくらいですから、その魅力たるや凄まじいものです。

 

 わかりやすさ重視で一色いろはについて語りましたが、他にも様々な魅力あるキャラクター達が多く登場するのが本作の魅力の一つと言えるでしょう。何なら代表格は主人公の比企谷八幡ですからね。

 

文章構成がかなりしっかりしている

 

 地味に思われるかもしれませんし、アニメ視聴組には想像しづらい部分でしょう。しかし確かにこの作品は、文章の美しさが素晴らしいんです。

 

 これもまた具体例を出さないとわかりづらいかと思いますが、ここは敢えて文章を提示しません。どうかご自身の目で確認していただきたい。

 

 どうして美しい表現を用いたりしているのかというとまあ、主人公の比企谷八幡が現国の成績トップクラスなのでその関係かと思われます。それもちょいちょいパロディネタとかギャグとか挟むので漫然と読んでいるとそこまで綺麗な文章という感覚は抱きにくいかもしれません。

 

圧倒的カタルシス

 

 昨今ではチートや俺TUEEEなどがよく流行として取り上げられていますが、俺ガイルの場合は主人公の身にとんでもない試練が次々と舞い込んできます。

 

 例えばですけど、八幡以外のライトノベルの主人公に「小学生の林間学校を手伝いに来たら女子生徒グループ内でいじめが発生してるみたいだから問題解決とまではいかなくとも問題解消まで持ってけ」なんて言ってそいつに何ができるのかって話です。

 まあ意地の悪い話をしましたけれども、要するに普通に考えて無理そうな問題をどうにかこうにか対処していくという絶望から希望への相転移が発生しているのがこの作品の強みなのかな、と私は思うんですね。

 

 与えられるストレス要因の大きさがなかなかのもので、それを解決ないし解消する流れも素晴らしく完成されているがゆえに得られるカタルシスも大きくなります。

 

 少し脱線しますけど、最近のサブカルチャーってどことなくカタルシスを得づらい環境になってきていると思うんですよ。先に触れたチート・俺TUEEEなんかが蔓延ってる影響もあるんでしょうけど。

 そういう意味では今の環境こそがこの作品に希少価値を付与している、というのも高く評価されるポイントの一つになっているのかもしれませんね。

 

比企谷八幡

 

 ぶっちゃけこの主人公がヤバ過ぎて独立した一つの長所となっています。

 

 上の方で少し触れましたけど、チートじみた超常的能力を持たないどころか社会的地位が低い状態でリア充グループに紛れ込みつつ女子小学生グループ内でのいじめを解消しろったって大半の物語の主人公は匙を投げると思うんですよ。

 それをやってのける時点でコイツは普通じゃありません。そりゃ作中屈指の強キャラである雪ノ下陽乃にも化け物呼ばわりされますわ。

 

 ただダウナーでクールな主人公というだけなら平凡な存在として認知されていたのでしょうが、彼はその上で気持ち悪い主義主張もするし、読んでてこっちがいたたまれなくなるような黒歴史を晒すし、妹にも気持ち悪がられるし、プリキュアアイカツ見て涙するような清純な心の持ち主だったりもします。

 というか割と定期的におちゃらけたりするんですよね。決してクール一辺倒な主人公ではないのがポイントです。

 

 ネット界隈では一時期(場所によっては今も?)「俺、八幡じゃんwww」などとほざく陰キャが湧きまくってたくらいですから、彼のパーソナリティは相当魅力的に映ったのでしょう。キョンでも士郎でも上条さんでもそんなん湧かなかったぞ。一方通行はいたかもしらんが。

 そのせいで「俺ガイルは好きだけど信者は気持ち悪いから嫌い」という人も一定数出てくる始末ですよ。まあ私もネット上でイキってるだけの自称八幡どもは大嫌いなんですが。

 

 

 

◆悪かった部分

 

 こんだけの名作なら無いと思われるかもしれません。

 でもですね、一応全く無いわけじゃないんですよ。少ないだけで。

 

 その辺り説明していきます。

 

序盤の展開全般

 

 この俺ガイル、実は1巻から2巻終盤までの流れはそんなに面白くありません。

「えっ?」と思われるかもしれませんがそもそも主人公である比企谷八幡が本格的にひねくれていて拗らせている部分を垣間見せるのが2巻ラストなんですよ。そこに至るまでの話の展開は主人公がちょっと根暗で友達いないだけの凡百のラブコメ作品でしかなく、八幡の性格から読み取れる情報をしっかり掴んでおかないとつまらなく感じてしまうかもしれません。

 まあそれでも序盤だってラブコメ作品として中の上くらいのクオリティは維持されているのですが、本来この作品に求めている要素はまだ顔を見せていないような状態です。

 

 何ならこれ言っちゃいますけど、1巻ラストのテニス勝負の決着シーンとか途中で作者さん面倒臭くなったんじゃねえかと思うレベルで不自然な結末を迎えているんですよね。

 なのでまだ読んでいない知人友人にこの作品をオススメする際には「3巻前半までは読んでみてから判断してくれ」と言うのが妥当でしょう。相手がそんなん言われて本当にそこまで読んでくれるお人好しかどうかはともかく。

 

比企谷八幡

 

「おい」って言われるかもしれませんが、この主人公は作中屈指の長所であると同時に短所でもあります。別に言動が気持ち悪くて不快だとかそういう意味でなく。

 

 結論から言ってしまうと、なまじっか素晴らしいキャラクターなだけに感情移入してしまい、その結果「お前はもっと怒っていいんだぞ!」「そこはお前何も悪くないぞ!」と読者の立場から思ってしまうような場面でも圧倒的な自己評価の低さから自分を下に置きたがる習性があるんです。

 

 これも具体例を出すと修学旅行編の最後の方とかがそうですね。八幡がやらかしてヒロイン二人が悲しみと怒りを表出するというシーンがあるのですが、あれはやらかしのきっかけとなった依頼を安請け合いしておいて実質的に何もしていないダブルヒロイン側にも問題があります。八幡はできる限りの全てをやったんです。例えそれが褒められたものではない手段であったとしても。

 流石にそこは許容できなかった人も多かったようで、二次創作界隈では一色いろは登場と同時に彼女と八幡をくっつける流れが主流化していました。わからんでもない。

 

 作者さんもその辺りの反応は想定していたのかあるいは読者の反応を見て「やべっ」と思ったのか、物語も佳境に入ったくらいのところであのプライドが高く負けず嫌いの雪ノ下が「結局自分は最後には八幡に頼って全てを委ねてしまうから、そこから脱却しなければ」というような旨の発言をします。

 要するに主人公が強過ぎたんです。しかもその方向性はなろう系作品に見受けられるようなわかりやすい強さではなく、「苦しみに耐え抜く」「難題に立ち向かう」という人間的な強さでした。

 

 そりゃあ精神的にはまだまだ幼い女子高生であるダブルヒロイン達がかなうわけもなかったんですよ。八幡本人はそれを否定してしまうのでしょうけれども。

 

 

 

総評

 

f:id:magomesudachi:20191121012948j:plain

f:id:magomesudachi:20191121013136j:plain

f:id:magomesudachi:20191121013216j:plain

 

 短所も二つほど挙げましたが、それを踏まえた上で素晴らしい作品でした。いや、本当に8年半追いかけ続けてきて良かった。

 最終的に本編は八幡と雪ノ下がくっついたものの由比ヶ浜いろはすも諦めていないようで、同時に彼女らダブルヒロインの家族もまた八幡を気に入った様子を見せていました。多分14.5巻とか出るんじゃないかと私は邪推しています。

 

 因みにですが、私はVITAのゲームで最初に由比ヶ浜ルートに入った関係でどちらかというと由比ヶ浜を応援しています。いや、公式で雪ノ下と付き合ってるんですからアレですけれどもね。ただキャラクター単体で見るといろはすが一番好きなんだよな……。

 

 ともあれ、それなり長い期間愛し続けてきた作品が完結したという事実は自分にとって結構大きなイベントでした。しばらくは二次創作SSでも漁って傷を癒そうかと思います。

 アニメ三期も決まっていますが、二期の時にニコ動で有料配信だったものですから私は見られない可能性が極めて高いと言えるでしょうね。最終巻終盤の小町といろはすの絡みをアニメで見たかったなあ!!あの仲良し女性VTuberみたいな無遠慮な会話!!

 

 現場からは以上です。それでは、またいつかお会いしましょう。