不在の巣

なろうで小説を書かせてもらっている馬込巣立のブログです

読書感想文『無限コンティニューで目指す最強勇者 〜みんなの命がひとつの世界で、オレのパーティーだけ不死身〜』

 こんにちは、馬込巣立です。

 

 まずこちらの記事をご覧ください。

 

 

magomesudachi.hatenadiary.jp

 

 まあこのブログをご覧の皆様は結構この記事を読んでいるようなので今更ではあるんですが、こうして以前も話題に出した一般サイコパスさんが先日またとある作品のレビュー動画を投稿したんですね。その内容がこちらです。

 

ゆっくりなろう系漫画レビュー「無限コンティニューで目指す最強勇者 〜みんなの命がひとつの世界で、オレのパーティーだけ不死身〜 」

https://www.youtube.com/watch?v=RamHEfDZLHo

 

 で、この作品めっちゃ酷評されてるんですよ。

 

 私も内容を聞いてみて「そりゃひでぇもんなんだろうな」とは思いました。作品の主軸からしてどうにかしているな、と。

 ただ動画を見てレビューを聞いていく中で、一つの事実に辿り着いたんですね。

 

「そういやkt60さんの作品にまともに触れたことねぇな」

 

 これです。物理さんの電子書籍版は購入したものの迷シーンを一通り見たら満足してそれっきりなので、実のところ真剣に中身を読んだりした経験ってなかったんですよ。

 加えて一般サイコパスさんはTwitterにてkt60さんと大喧嘩した経歴もあるため、感情的になって客観的な立場から感想を述べているのかどうかというところに疑問も生じます。

 

 私もkt60さんの言動は決して褒められるものではないと思いますし、作品のクオリティも物理さんをさらっと読み返した限り彼の実力は高確率でド底辺です。

 しかしその先入観によって読む前の段階で評価してしまうのは読者として不誠実な態度と言えるのではないでしょうか。

 

 私も一般サイコパスさんのレビューを見る限り「この動画だけで完全な駄作認定は難しいのでは?」と感じたからこそ、実際に購読した上で自分自身の判断で面白いかつまらないかを決めたいとそう思ったわけですね。

 

 そんなわけで実際に購入してみました。

 

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 少し調べたところどうやら「小説のコミカライズ」ではなく「原作者つきの漫画作品」であるらしく、読むのはこの一冊で間に合いました。

 全部読み終えた今だから言いますけど本当に良かった。小説一冊分もこの内容を追いかけるなんてしなくて済んだ。

 

 既に結論出てしまっているような気もしますが、まず概要から述べていきましょう。

 

 

 

◆作品の概要

 

 現代日本に生きる高校生の龍頭レンはトラックに轢かれそうになっている猫を助けようとして道路に飛び出し轢かれて死んで、気づけば異世界に転移していました。

 

 待ってください。人物の掘り下げとかそういうのが不足しているせいで本当にこういう説明しかできないんです。

 

 で、転移した先で怪力とか魔獣使いとかそういうわかりやすい能力を持っていないため「しゃあない殺して死体を資源として再利用するべ」と判断した王様により殺害されます。

 ところがレンの固有能力は「死んでも女神像がある場所(セーブポイント)で生き返る」というものであり、彼は街中で生き返ったのです。

 

 そして生き返ったところに居合わせた少女・ルミィと結託し、異世界に召喚された当初の目的であるグランドセブン(7つの迷宮)の攻略に乗り出すのであった――というところで1話終了、次回に続くといったところでしょうか。

 

 

 

◆良かった部分

 

魔法の設定

 

 この物語の舞台となる異世界において、魔法と言えば召喚魔法(何らかのモンスターを呼び出して使役する魔法)がメインとなります。基本的にあらゆる魔法は召喚した対象に使わせればいい、という理屈だそうです。

 その次に重要視されるのは治癒魔法や補助魔法と呼ばれるものであり、魔法使いが直接火を出したりするものに関しては「そんなの召喚獣に使わせればいいじゃん」という理屈から素朴魔法と言われています。

 

 まあこの設定については「一瞬の判断が命運を分ける戦いの場において召喚という一手間がかかる以上それは実践的ではないのではなかろうか」などのツッコミどころもあるんですが、召喚獣に魔法を使わせるのが魔法使いにとっての常識」という設定はなかなか面白いと思います。

 

 ただこの設定について言えばもったいない部分もあったりするので、それは後述します。

 

 

 

◆悪かった部分

 

 すんません、良かったところは以上です。ここからは数々の問題点を一つ一つ解説していく流れとなります。

 

 

 

主人公の人格と行動に一貫性がない

 

 この主人公、死んだ直後のナレーションでは「正義感だけは人並み以上」って言われてるんですよ。それも三人称視点でのナレーションなので本人が自称しているわけでもなく。

 で、その人並み以上の正義感を持っている主人公が初対面の王様相手にタメ口叩いたり、「勇者なら他人の家を家捜ししても許される」「勇者なら他人の所有物を破壊して中身を拝借しても許される」と言って民家に押し入ってタンスから金を抜いたりツボ割ったりするんです。

 

 ノリで登場人物のパーソナリティを殺すな。

 

 多分これ、作者さんはギャグのつもりで入れてるんでしょうし作中それをやられた人達も許容しちゃってるんですけど、普通に見てて不愉快だしつまんねーんですよ。

 

 この龍頭レンとかいう主人公、一応言っておくと現代日本に生まれ育った人間なんですね。で、そうである以上は彼の倫理観も現代日本的でないとおかしいわけです。

 そこに説得力を持たせるべく「おかしい人物を主人公に据えたんだ」とするのならば今度は冒頭での人並みアピールが大きく矛盾します。正義感以外は人並みって三人称視点で言った以上、そこ以外を突出させるのは違うでしょ。

 

 そして個人的に一番「キッツいな」と思ったのは謎の語彙とかいうスキルを習得するシーンですね。

 ロクなスキルが得られないからとレンが試行錯誤した結果、唐突にその場で会話の流れともこれまでのシナリオの流れとも一切無関係な英単語を急にキメ顔でまくし立てるんですよ。

 単純に面白くないし痛々しいだけだしそこから読者が得られる何かしらがあるわけでもない、世界に存在する必要性が皆無な場面でした。

 

 で、単行本終盤で主人公が勇者に選ばれた理由が「死んでもあっけらかんとしたまま行動できるバカだから」という設定が盛り込まれるわけですがもう手遅れですよ。

 

 例えば同じような設定で、少年ジャンプにて連載されているチェンソーマンの主人公・デンジがいます。

 

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 コイツも「何度も死ぬけど何もなかったかのように復活して笑いながら戦うイカれた主人公」という点では龍頭レンと一致します。

 が、しかし龍頭レンと大きく異なる点があるんです。以下にその異なる点を書き連ねましたのでご参照ください。

 

・何だかんだ読者が理解及び共感できる人物構成である

イカれているような性格に説得力を持たせるだけの境遇があった

・知識がないだけで地頭は良く、それが戦闘の中でも描かれる

流石に押し入り強盗はしてない

 

 要するにこの龍頭レンという主人公、キャラクター造形が不細工なんですわ。最初から作り直した方がいい。

 

 

 

ヒロインとの関係に説得力がない

 

 主人公と行動をともにするヒロインとして、この作品にはルミィという少女が登場します。表紙にもいる獣耳のやつですね。

 で、彼女なんですが主人公を見て「顔がいいから」と一目惚れするんですよ。

 いやまあまあ、良いんですよ。顔が好みってところから入ってもその後ちゃんと付き合っていけるかどうかはお互いの相性とか次第ですし。

 

 ただその後、「彼は顔だけの人じゃない!」みたいなシーンが入るわけでもないまま相手の顔面偏差値を起源とした恋愛模様が描かれ続けるんです。

 

 あの、まあこれはあくまでも邪推ですけどね。多分これもチェンソーマンでやってた「顔の良い女」とか「俺は俺の事を好きな人が好きだ」から着想を得たのかな、とか思わなくもありません。

 ただそうであろうとなかろうとチェンソーマンに通ずる魅力をこの作品は持っていないわけで、もうどうしようもない。

 何故かというとチェンソーマンがそれやって高クオリティを発揮できているのって、「結局顔ばっかじゃ落とせねえ」って事実をちゃんと描写してるからなんです。この作品にはそれが無い。

 

 じゃあどうすべきかっていうとルミィに「レンは顔だけじゃない、優しい人なんだ」と思わせるイベントが早急に必要なわけですよ。

 頭撫でたりちょっと優しくされただけで好感度上がるってんならそれ以上のことされた時点で他の顔面偏差値高い男に寝取られるってことでもあるんです。もうその時点で信頼関係の構築に失敗してるも同然でしょ。

 

 メインヒロインなんだからもう少し気合い入れてイベント構築してもらいたいところですね。

 

 

 

主流とされる召喚魔法が提示されない

 

 前述した通り、この作品における魔法とは召喚魔法が主流とされています。が、肝心の召喚魔法を1巻の中で誰も使ってないんです。

 

 出そうと思えば出せる場面もありました。

 例えばスライムがいるダンジョンにはモブの男3人パーティがいましたけど、あそこで召喚されたモンスターらしきキャラの一つでも登場させておけば掘り下げようもあったはずなんです。

 

 しかし召喚獣どころか召喚魔法自体、作中で描写されません。ルミィが杖から火を吹いてるだけです。つまり設定を無駄死にさせているんですよ、この漫画は。

 召喚獣に魔法を使わせるっていうのが実際にはどんなもんなのかと思いきやまさかの「描写しない」だなんて、そんなん解説したページがもったいないでしょ。だったら最初から作るなそんな設定。

 

 

 

絡みがワンパターン

 

 レンとルミィの絡みなんですけど、「顔が近づき過ぎたことに気づいて照れて急ぎ距離を置く」ってやり取りが単行本一冊の中で4回は描かれています。

 

 くどい。

 

 ちゃんとした恋愛描写ができないならそれはそれで適性の問題だし構わないんですけど、一度撃った弾を拾って再利用しようとするなよ。できてねぇから。

 やるならルミィにおばあちゃんがいる設定だけさり気なくコマ外のセリフで言及されてるんだから「全身傷だらけになりながらおばあちゃんの病気を治すのに必要な薬草を集めてきてくれた」くらいのエピソード入れときゃいいでしょ。手を抜くな、手を。

 

 

 

ギルドの挙動が意味不明

 

 ダンジョン内に宝箱が入っているトラップ部屋があるんですけど、その部屋の前にギルドが立てた看板が設置されているんです。で、読んでみると

 

 

◆親切な看板

 ダンジョンのトラップには、絶命級のものも多い。

 召喚獣を使い、どれほど危険か確認しましょう。

 by 親切なギルド職員

 

※人が入るのはやめてください

 真面目に死にます。殺します。

 by 殺人トラップには手を抜かないギルド職員

 

 

 以上のような文面が記載されているわけです。この時点で色々言いたくなりますが私からは一つだけ。

 

 なんでギルドが人を殺そうとしてんだよ。

 

 わざわざ宝箱まで設置したってことは明確に「取れなきゃ死ね」って意図を含んでいますよね。

 これ現代日本で例えるならただの部品組み立て工場に理由もなく札束噛ませたプレス機が設置されてて、そこに「間に挟まったら死ぬと思ってください」って会社からの注意書きが提示されてるようなもんでしょ。

 

 意味わからんし別に笑える要素でもない。ただ理解できないだけ。

 先の押し入り強盗のシーンについて述べた際にも思いましたが、シリアスもできねえのにギャグもつまらないって物語としてどうなんだろう。

 

 

 

そもそも漫画家が手を抜いている

 

 一般サイコパスさんの動画で「素人に毛が生えていないくらいの画力」と評されていた漫画家さんですが、個人的には画力以前に志が不足しているんじゃねえかと思いました。

 

 例えばレンが剣と盾(鍋の蓋)を持ってスライムと戦うシーンでは、定期的に盾(鍋の蓋)が消えます。

 描写の簡略化とかそういう言い訳は許しませんよ。だってスライムを斬った瞬間の決めゴマで消えてるんですから。

 

 更に最初にステータス画面が表示される場面では、表示されている画面と文字の角度が合っていません。ついでに言うとその先でギルドが提示するダンジョンのリストも紙と文字の角度が合っていません。

 それとこれは完全についでですがスライムの表情も子供の落書きみたいな顔ばっかで一切変化が生じません。

 

 低クオリティ作家の原作コミカライズ充てられて不機嫌になってんのかもしれないけど自分の株下げるような真似すんな。金銭が発生してる仕事だろ。

 

 仮に本気でやってこれならそれはそれで問題ありますよね。少なくともまだ商業作品を担うには早かったと言えるでしょう。

 誰かしらプロの漫画家さんとこでアシスタントしてきた方がいいですよ。

 

 

 

◆総評

 

 浅い。

 

 人物に魅力がなく、設定は呼吸をしておらず、世界観は必要最低限な部分も見えてこない。誰向けの漫画なんだろうこれ。

 最初は「死んでその場で蘇るとか死に戻りとかでもなく別の場所に移動するって趣旨からしておかしくねえか」とツッコむつもりでいたんですが、それ以前の問題が山積している。

 

 端的に申し上げて金取れるレベルに達していないというか、中古で買えば良かったかなコレ。

 

 まあ今回はそんな感じで。

 流石に色々と思うところもあった関係でちょっとここから下の方で毒吐くんで、そういうの苦手な人はここまでで読むのをやめてくださいね。

 

 それでは、また。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 駄作って本当に誰からも愛されなくて、それって関係者も例外じゃないんですよ。

 

 例えば『回復術士のやり直し』のイラストレーターであるしおこんぶさんのTwitterアカウントを見に行くとわかるんですけど、自身がイラストを描いた作品がアニメ化決定したのに固定ツイートはエアコミケで出す船長のエロ同人の宣伝なんです(2020/08/04現在)。ヒールがどうとかどうでもいいっていう顧客の心情がわかってるんです、あの人も。

 で、この『無限コンティニューで目指す最強勇者 〜みんなの命がひとつの世界で、オレのパーティーだけ不死身〜』の漫画担当であるミヤウチシンゴさんも多分似たようなもんだと思います。いやわかりませんけどね。会って話聞いたわけでもないし。

 ただ少なくとも今回私がミヤウチさんを批判した部分って漫画としての常識的な部分だったわけじゃないですか。「名作を貶めないよう力入れて描こう!」って気概で描いた漫画作品ではないでしょ。

 

 何が言いたいかというと、普通に考えて漫画って原作者と漫画家の二人だけで構築するものではないはずなんですよ。

 

 編集は何しとんの?

 

 素人の私ですら「ここの絵はおかしい」って言えるのに、なんでそのまま出版したのかって疑問は当然出てきますよね。で、その答えを出す上で一番わかりやすくて納得もできる理由として挙げられるのがもう全員こんな作品どうでもいいと思ってるってことなんですよ。

 

 あのですね、じゃあ出すなこんな駄作。書店のスペース無駄に取りやがって邪魔なんだよ。

 

 出すんだったらきっちり仕事しろって言いたいんですよこっちは。別にもう内容がつまらないのは原作者側に構成力も成長性も期待できないから仕方ないにしても、絵的な問題は改善しないと駄目でしょ。裏サンデーの面汚しもいいとこですよこんなん。灼熱カバディ100回読み返して漫画ってもんがどういうものなのか勉強してこい。

 

 自分は金出して買いましたけどとりあえず「kt60さんは本当に実力がない」と自らの判断によって結論づけられたので今回はそれを収穫としておきます。今後書店で無駄な買い物をせずに済む確率が上がった。

 

 では、現場からは以上となります。

 また次の機会に別の記事でお会いできれば幸いです。