不在の巣

なろうで小説を書かせてもらっている馬込巣立のブログです

アニメ感想文『回復術士のやり直し 第1話』

 皆さんこんにちは。馬込巣立です。

 随分と前に宣言した通り、本日から自他共に認める問題作『回復術士のやり直し』アニメ版の感想文を書いていきたいと思います。

 

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 私がこのアニメの感想を書くに至った経緯とかについては下記のリンク先にある当ブログの記事をご覧ください。

 

magomesudachi.hatenadiary.jp

 

 まあ知ってる方は知ってると思いますが曰くつきの作品であり、動画サイトにおいてライトノベルの批判的なレビュー動画が消されまくるようになったきっかけの一つと言える存在です。

 ただそういった背景の更に背景みたいな話は作品の出来と関係ありません。面白ければ素直に面白いアニメとして評価し、気の向くままに褒めまくるつもりです。

 

動画はこちら

www.nicovideo.jp

 

 あとこれだけ先に言っておきます。

 私がこの作品の感想を述べる上で、盗作問題について触れる予定は今のところありません。

 

 何故かというと盗作されたと言われている作品群について私自身が無知であるため、「ここはアレのパクリ」と厳密に言及することができないからです。逆に言うと私が知っている作品の盗作と思しき場面が出てきたら「アレのあのシーンと被る」くらいは言及するつもりでいますが。

 詳しく知っている方は個々人でその証拠を提示してくれればと思います。

 

 

 

◆概要

 

 勇者パーティにて不遇な扱いを受けていた回復術士、癒の勇者ケヤルは魔王との戦いを前に自身の力を覚醒させて見事魔王を討ち倒しました。

 で、その魔王の体から摘出した賢者の石という万能アイテムの力によって苦痛と屈辱の日々をやり直すことに。つまるところハイファンタジー作品でループものをやるということですね。

 

 自分を虐げた勇者の一人である王女と出会う前まで戻った彼は、二度目の人生で他の勇者達への復讐を成し遂げるため暗躍するのでした。

 

 と、まあこんな具合でしょうか。

 ファンタジー異世界でのループ復讐ものということで売り出している本作、果たしていかほどのものか。

 

 私はヤングエースUPでコミカライズ版を読んでたので「まあ間違いなく駄作になるだろうな」と察しているのですが、アニメは案外面白くなるかもしれません。とりあえず見ていきましょう。

 

 

 

◆良かった部分

 

序盤の展開がアニメ向けに改変されている

 

 アニメ1話OP明けは主人公が悪夢を見て自宅で目覚めるという場面から始まります。この始まり方は個人的に高く評価したい。

 

 コミカライズ版ではなんかブツブツ言いながらフレアを襲ってるシーンの次にいきなり魔王との戦いに入っていた本作ですが、アニメでこれをやってたら多分初見の視聴者は混乱してたと思います。

 小説や漫画ならサクサク読み進めればいいのでそれも大きな問題はないのですが、映像媒体は映像側の進行に時間の速度が委ねられるのでテンポは大事なんですよ。

 

 そういった弊害を生まないようかなり気遣いのできる始まり方ができていたなと私は感心しました。

 

 

 

ヒールの発想は面白い

 

 アニメだとかなり省略されていてわかりづらくなってしまっていましたが、回復術を「体を元の形に戻す」と定義した上で様々な形に拡大解釈し、戦闘手段に発展させるという発想はなかなか良いと思いました。

 加えて「癒やす対象の経験を追体験しなければならない」という代償の重さも能力の強さに見合ったものです。料理人の腕によっては相当味わい深い作品になるでしょうね。

 

※改めて見直してみると「どういう理屈であんな風に応用しているのか」の説明がアニメ版では大幅にカットされており、映像単体で見ると意味不明な流れになっていることに気づきました。コミカライズ版を先に読んでいたせいで脳内補完したまま話を観測してしまっていたようです。申し訳ありません。

 

 

 

OPとEDは良曲

 

 こういうアニメでは珍しいことに、OPもEDも私好みの良曲でした。普通に購入するつもりでいます。

 特にEDに関して言うと絵面も綺麗なんですよ。

 

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 傲慢さの際立つ王族も奴隷として扱われてきた亜人も敵対すべき魔王も、全員が草原で一緒に眠る様子は普通に美しいですよね。ここはマジで構図考えた人の偉業だと思います。

 

 

 

◆悪かった部分

  

精霊があまりにも怠惰過ぎる

 

 物語序盤、主人公のケヤルは精霊の瞳を手に入れるため脳内に響く声に従う形で精霊がいる泉に向かいます。

 そこで星の精霊とやらに出会ってそいつから翡翠眼という全てを見通す目を受け取るわけですが、このシーンで問題発言が挿入されちゃってるんですね。

 

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「古き盟約に従い、我が友が君の先祖から受けた恩義に報いるため精霊の力を与えよう」

 

 コイツが何を言っているのかは理解できるんですけども、じゃあ泉に来るまで待ってねえで最初から手ぇ貸してやれやって話じゃないですか。

 何ならコイツをメインヒロインに据えて「ここで全てを見通したから未来で起きる悲劇を先読みできた」とかにしとけば後述するやり直しの意味も無難に落ち着いたでしょ。

 

 この作品の基本的な設定に「ケヤルが人生やり直すまではとにかく他の勇者達から酷い扱いを受けてきた」ってのがあるわけで、そこに一切介入してなかったってことは前の世界線においてこの星の精霊を名乗ってる間抜けは恩義とかほっぽり出してサボってたってことになるんですよ。そら友達の恩人の子孫とか関係遠くてやる気しねーってんならわかりますが。

 少なくとも漫画の方では精霊の口からこんなバカ丸出しな発言してなかったと思うんですけど、原作ではあるんでしょうかこういうセリフ。

 

 

 

ヒールの有用性について

 

「回復しかできないから戦闘に参加できず役立たず扱いされた」って話みたいですけどケヤルが薬物漬けにされたタイミングって何度か逃げ出してからなんですよね? アニメでの説明を鵜呑みにする限り。

 

 でも経験を読み取った副作用で動きを模倣できるようになったって話は最初に剣聖を癒やした時点で成立してるわけですから、普通に途中からでも戦闘員として役に立てる余地あったのでは?

 剣聖は純粋な腕なら剣の勇者より上とかって話まであったじゃないですか。そんなのが味方にいる時点で充分な戦力でしょ。

 

 仮にその判断が遅かったとしても「回復しかできないから役に立たない」って判断そのものが戦闘舐めてるとしか思えないんですよね。衛生兵のいない戦場しか存在しないのかこの世界。

 

 

 

復讐するタイミングがおかしい

 

 先に述べた通りケヤルって本来ならもっと早い段階でそこそこの戦闘能力持ってなきゃおかしいはずなんですが、そうなると復讐するタイミング遅くねえかって問題が出てくるんです。

 

 だって他の勇者ども全員魔王に倒されてるわけでしょ。で、ケヤルはそんな魔王を単身で倒せたわけでしょ。

 つまり薬漬けになる前の段階で既に

 

ケヤル>魔王>他の勇者三人

 

 という関係が成り立つわけですよね。じゃあ魔王と戦うまでもねえじゃん。そのままボコボコにすりゃいいじゃん。

 なんで大人しく薬漬けにされてんのかな。バカなのかな。

 

 

 

やり直す必要性がない

 

 恐らく作中最大にして最悪の問題点がコレです。このやり直し要素は今後もあらゆる場面でこの作品の足を引っ張り続けます。

 だってもう一つ前の項目で言った通りその場で普通に復讐できますからね。そんでやり直して何するかっつったら1話見た限り女とヤッてトラウマ再発するだけじゃないですか。この不必要な遠回りに一切の必要性を感じない。

 

 タイトルにも組み込まれている要素がシナリオ上ひたすら虚無のまま進むのってシンプルにクソだと思うんですが。

 

 今回はこんなもんでサラッと流しますけど、これから先ちょくちょくこの設定の雑さがノイズになってくるので覚悟したいところです。

 

 

 

変なところで出てくる魂がどうとかって理論

 

 ケヤルが「世界を最初からやり直す」という宣言をしたところでフレアから「そんなんしたらそっちの記憶も消されますやん」とツッコミが入るわけですが、それに対する彼の返答が

 

「全て消え去ってもこの痛みは絶対に忘れない」

「俺が俺じゃなくなった絶望、苦しみ。全て魂に刻み込んだ

「時間が巻き戻され記憶を失っても消えはしない」

 

 こういうものだったわけです。急に何?

 これで“魂”なるものについての説明が事前にあればまだわかりますよ。それかもしくは「俺の家の近くには星の精霊がいるからそいつの力を借りる」って話ならストレートに納得できる話になるじゃないですか。

 なんで既存の使えそうな設定を無視して説明すらろくにしていない謎理論に走るのか、そこのところが全然理解できなくて最初すっげえ困惑しました。

 

 

 

薬物耐性スキル

 

 薬物中毒にされて定期的に薬を盛られていった中で薬物耐性スキルが手に入ったって話がありまして。

 この話自体は別におかしくないんですよ。そりゃ「スキルってなんだよ」とか色々言いたくなる人もいるでしょうし気持ちはわかりますが、この項目で触れるのはそこまで細かい話でもありません。

 

 このスキルを早い段階で手に入れるため、2周目の世界でケヤルはある行動に出ます。

 

 

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 麻薬効果のある植物やキノコを食いまくり

 

 

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 体に耐性をつける準備をオイオイオイ待て待て待て。

 

 

 まず麻薬効果のある植物やキノコとか言ってますけどどうやって自分を中毒症状に至らしめた薬物が麻薬由来であると判断したのかが謎。同じ症状だからって同じ成分で薬が作られてるかどうかなんて飲んだだけの素人がわかるわけないでしょ。

 仮に翡翠眼があるからわかるってこじつけようにも1周目の世界で飲まされた薬はまだ2周目で見てすらいないじゃないですか。じゃあわからないままですよそんなの。

 それとも何ですか? 歩いて行ける範囲にそんな危険なものが群生してる辺り、例のお薬はケヤルの故郷の名産品で王族御用達だったりするんですか? だとしたら薬の成分について知ってても違和感ありません。

 ただそうなると復讐がテーマの物語なのに主人公が薬漬けにされたのは因果応報でしたっていうオチになりますね。今後全ての展開において爽快感が欠けます。

 

 次に細かいところについて言及しますが、そんな症状が出る草やらキノコやらを摂取しなくても魔王との戦いでやってたように自分を回復すりゃいいだけの話だと思うんですよね。

 つまり記憶を持ち越して勇者になる前の段階まで戻った時点で薬物耐性スキルそのものがお役御免の状態ってことです。何を目指してこんな無駄に苦しむような真似をしているんだろうこの子。

 

 ていうかなんでまた薬盛られて中毒症状になる前提で話進めてるんだよ。何もやり直せてねえよ。最初にフレアに言われた通り同じ人生送ってるだけだよ今んところ。

 

 

 

唐突に出てきた略奪のヒール

 

 魔王との戦いで見せた模倣、改良、改悪はまだ「肉体を操作する」「操作に必要となる過程で模倣するための知識と技術を得る」って名目でアリと言えなくもなかったんです。

 ただ、この1話の後半で略奪のヒールっていうのが出てきまして。

 

 

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 なんか相手の体に手を当てて光らせながら「相手の経験値をいただく」とか言ってるんですよ。いやどういうこっちゃねん。

 相手のこれまでの人生を追体験するのが回復術のデカい代償みたいに言ってたのにダイレクトに経験受け取っちゃってんじゃないですか。なんでこの後の剣聖のシーンで癒やすの嫌がってたんだよ。メイドとヤる度に使ってんだから慣れとけ。

 仮に「兵士とかと違ってメイドは戦闘員じゃないから怪我の記憶を引き継ぐリスクが少ない」と理屈づけしたところで、今度は「戦闘員じゃないやつは回復術士すら使い物にならないとされている世界観でメイドが何のためにレベル上げしてんだよ」って話になりますからね。

 

 せっかく良かったところの項目で「代償としては申し分ない重さ」みたいな褒め方したのにこの唐突に出てきた謎のヒールで全部無駄になりましたよ。上等な料理にハチミツをぶちまけるのやめろ。

 

 

 

◆総評

 

 色々言ってきましたけどコミカライズである程度の予習を済ませておいたからか、そこまでダメージはありませんでした。「こんなもんだよな」という納得があるばかり。

 何なら思ったよりアニメスタッフ頑張ってますよ。PV見た時にはほとんど絵が動かなくて「作画やる気ねーなぁ……」とか口走ったりしたものですが、魔王戦ではぬるぬるとまではいかないまでもそれなり見ていられる動きをしていました。

 ただやはり原作のクオリティは隠しきれないようで、設定の破綻は今のところフォローできていません。

 

 ついでに言うと変に性的な描写を重視してしまっているためそこでテンポが崩れるのも考えものです。

 エロいだけなら短所と言えるほどのものでもないので今回は言及を避けましたが、今後も特に面白みのない修正だらけのシーンを挟んでいくつもりなら立派な致命傷となる部分だと思います。地上波でやる意味ないからね今んところ。

 

 とりあえず第1話の感想はこんなもんにしときますか。

 総評の頭の部分で「ダメージは少なくて済んだ」とは言いましたが良作駄作のどちらかと問われれば迷わず駄作と言い切れる状態なので、今後化ける可能性については期待しないでおきます。

 

 それでは、また次の記事でお会いしましょう。