不在の巣

なろうで小説を書かせてもらっている馬込巣立のブログです

未知なる味を求めてラーメン屋で失敗した話

 こんにちは。馬込巣立です。

 

 皆さんは普段外食する時、どういった基準で店を選びますか?

 

 味はそこそこの安いチェーン店を選ぶ人もいるでしょう。

 歩いて行ける距離にある信頼性の高い店を選ぶ人もいるでしょう。

 

 しかしたまに、ちょっとした冒険気分で知らない店に足を運んでみたりすることはありませんか?

 

 今回は私が過去に冒険しに行ったラーメン屋で失敗した話を書こうと思います。

 

 先に述べておきますと、営業妨害の意図はありませんので店名は伏せさせていただきますね。

 

 

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 私がそのラーメン屋に寄ったのはとある夏の日でした。

「夏場にラーメンかよ」と思われるかもしれませんが当時私は仕事の都合で周辺に店と呼べる店もないような地域に来ており、大して土地勘もなかったために手近な店で済ませるしかなかったのです。

 更に言うなら私は基本的にシンプルな醤油ラーメン、いわゆる中華そばしか口に合わない人間なのでいかに夏場のラーメン屋とはいえ冷やし中華など論外も論外でした。ラーメン屋で食べるのはラーメンなんですよ。冷やし中華ではない。

 

 さて、普段なら私はラーメン屋で冒険というものを一切しません。

 というのもですね、中学生時代に父と二人で初めて入ったラーメン屋で結構な不味さのラーメンをお見舞いされた関係でそういった行動を意識的に避けていたんですよ。

 因みにその「結構な不味さのラーメン」ですが、端的に言うなら「旨味は無いのに胸焼けだけしっかりするとんこつラーメン」でした。注文したのは醤油ラーメンだったのに何故か「醤油一丁!」つって出されたのがそのとんこつラーメンでした。テメェの脊髄で出汁取ってやろうかクソ店主。

 

 ともあれ本来ならそういう場所での冒険は避ける私なのですが、厄介なことに「近くにコンビニあるから」という先輩からの事前情報を鵜呑みにした私の手元にパンやおにぎりの類はなく、目の前には東京都内とは思えないような団地、団地、ときたま公園といった景色しかありません。もはや頼れるのは数メートル先にある見知らぬ店のみ、という状況に陥ったわけです。

 

 ただ、最初から不味いと決めつけるのはよろしくない。もしかしたら口に合う可能性だってあるんですから。

 というか仮にも食品として提供されているものなら最悪「食えない」ってことはないはずだとこの時の私は愚かにも思っていたわけです。

 

 財布に二千円入ってるからもし高くても食えるな、と自分の懐事情を確認してから店内に入りました。

 

 

 

 

 直後、幼児のよだれみてぇな悪臭が鼻腔を突き抜けました。

 

 

 

 

「嘘やん」と思いつつ店内を見回します。

 こういった店では珍しいことに若い女性二人組がいるのは見えました。しかしそれ以外に客はいません。今にして思えば談笑しながらこの店のラーメン食ってたその女性二人はなかなかの精神力をお持ちのようでしたね。

 

 ともかく、空腹である事実は事実。テーブルに座って「醤油ラーメン」の有無だけ確認、とりあえずあったのでお冷を持ってきたお婆さんに「醤油ラーメン一つ」とシンプルに注文しました。喋る時も若干よだれっぽい臭いで吐き気がこみ上げてきたのを書きながら思い出してしまったんですけど私は元気です。

 

 で、悪臭に満ちた店内で残り電力の少ないスマホをいじりながら私は考えます。

 

 店内の臭いは確かに酷い。私が何らかの権力を行使できる立場なら業者呼んで強引にでも全面的に洗浄するレベルでしたが、しかしまだ諦めるには早いと思っていました。

 これだけの臭さを醸し出されている現状、今日のランチタイムに希望は残されていない。しかし、まだマシな絶望の可能性もある。

 そう、私の中には「店が臭いだけで料理そのものが臭いと決まったわけではない」という僅かな、本当に微細な可能性が残されていました。

 

 もしも料理に臭いが宿っていなければまだ救いはあるんです。そこさえ無事なら少なくとも同じ環境で食わされる具のない袋ラーメンよかマシなんです。

 光明というより闇の密度が薄い部分に一縷の期待を寄せながら水分補給と吐き気を抑える目的でお冷をぐびぐび飲む私は、さながらサスペンスドラマで引くに引けない状況に追い込まれた週刊雑誌の記者みたいな心境になっていました。

 

 そんな中、スマホで懐かしの新ジャンルスレの残滓を眺めながら待つ私に店員のお婆さんが声をかけてきます。

 そうして手元に運ばれてきたラーメンを前に、私は呻きそうになりました。

 

 

 悪臭の密度が違う。

 

 

 大変申し上げにくいのですが間違いなくあの店の店主はラーメン以前に料理がド下手糞です。間違いない。具のない袋ラーメンの方が万倍マシなラーメンとか食材の無駄でしかない。

 

 まさか現実で「ヴォエッ」という言葉を発する時が来るなんて思っていませんでした。すぐに「うへっぉほんっ! あ”-つばが変なとこ入った!」と誤魔化した私を誰か褒めてくださいマジで。

 料理漫画なら赤ん坊の口から吐き出されたラーメンが鼻の穴に流し込まれる幻覚を伴うリアクションしてたところですよ。

 

 ともかく、悪臭の根源を前にしてそれでも私は耐えました。

 この時まだ私は、ほんの、ほんの一筋のまだマシな絶望を夢見ていたんです。

 

「もしかしたら嗅覚的刺激が強いだけで味覚的刺激はまともかもしれない」

 

 そんな幻想を思い描いていました。んなわきゃねえのに。

 

 まだ決めるには早い、まだ諦めるには早いと自分に言い聞かせながら麺を口へと運びます。近づけば近づいただけ悪臭は強まり、えづきそうになるのを我慢しているうちに涙が滲んできました。

 

 思えばどうしてこんなもん食ってるんだろうという疑問が脳裏を過ぎります。

 

 仮に仕事先の近隣にコンビニがあろうがなかろうが、慣れない土地には違いなかったのですから事前におにぎりでも何でも買っておけば良かったんです。

 もしも出先にコンビニが無かったらどうするのか、という発想が欠けていたわけではありませんでした。コンビニが無くても自販機くらいあるだろうし、最悪飲み物で一食分間に合わせようかと思ってたんです。

 

 そこにこのラーメン屋があるのを知り、他に店も見当たらないし飲み物だけで間に合わせるよりは健康的かなと思ったのが運の尽きでした。

 結果がこのよだれ臭に満ちた店内で突き出された、よだれ臭漂うラーメンです。

 全て私の事前準備不足、あるいは食べないと決めたならそれを貫く覚悟不足。

 

 あの時の俺に言ってやりたい。

 迂闊な事はするなと。

 軽率な真似はするなと。

 見て見ぬフリはするなと。

 もっと注意を払えと。

 

 

 

「くっさ」

 

 

 

 一つ良いですか。

 

 一口目から食べきるまでの記憶無いんですよ。

 

 気付いたらどうにか食べきってました。憶えている一口目の印象としては、とにかくよだれよだれよだれなラーメンでした。スープの8割が店主のよだれなんじゃねえのクラスのよだれ臭さでした。

 

 ともあれ食べたので急いでレジに向かいました。650円とかその辺の値段だったと記憶していますがまた曖昧な記憶なのでどこまで頼りになるものか。

 

 急ぎ外に出ると、真夏の熱気に襲われると同時に「あ、空気が臭くない!」という事実に気づいて愕然としました。どんだけ悪臭に毒されてたんだろうかあの時の自分は。

 

 あくまでも東京都内の空はどこか濁った青さで私を出迎えてくれます。そのくすんだ色と排気ガスまみれの空気がどこか懐かしく、奇妙な解放感を覚えたものです。

 気付けば休憩時間は終わりつつあり、私は焦って現場へと戻りました。

 

 これで私の冒険は幕を閉じ、二度とあんな冒険はしねぇと心に決めたわけです。

 今後も行ったことのないラーメン屋には行くでしょうが、悪臭が漂ってたら即座に引き返します。その日の昼食を抜こうとも、あんなものに金払うくらいなら食わない方がマシです。

 

 皆さんも飲食店での冒険はほどほどにしておきましょう。あのよだれ臭いラーメン屋で得た教訓を、私はなかったことにしてはいけない。

 

 そんなところで、現場からは以上です。

 新年明けて少し経ちますが、案外日向は暖かい日々が続きますね。とはいえ油断して風邪など引かないようお気をつけてお過ごしください。